八十八&一二三の文楽れんらくちょう

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【MSN産経フォト】文楽に逢う

【MSN産経フォト】より。

文楽に逢う(2011.12.15)

 照明が薄暗くなって場面が変わる。物語はいよいよクライマックスを迎えた。三味線の音色が胸の高鳴りを後押しするように響いてくる。


床一面に飛び散った絵の具の跡は一年間の仕事の足跡でもある。年末の大掃除では床に敷かれている布が交換され、きれいな作業場で新年を迎えるという=大阪市中央区の国立文楽劇場


 舞台は親子の悲しい境遇を描いた名作「伊賀越道中双六」沼津の段。東海道で旅の若者と荷持ちを生業とする老父が出会う。話しこむうち、二人は幼いころに別れた親子だと気付くが、長い年月の間に敵味方の関係となっていたことも知る…。


「伊賀越道中双六」(沼津の段) 場面が変わる際に観客の目を楽しませながら、素早く背景を変える「道具返し」の技術。家のセット(上)が手品を見せるようにパタパタと変化し、富士山と千本松原の景色(下)が現れて物語はクライマックスを迎えた=大阪市中央区の国立文楽劇場


 遠方に富士山を臨む、夜明け間近の千本松原の美しい風景の中で、互いの立場と義理を思いやりながら、親子は永遠の別れをする。


刷毛をつかって手際よく背景を描く大道具係のスタッフ


 この間、舞台上では場面転換する際に「道具返し」といわれる大道具の技術が使われた。あらかじめ描かれていた背景が屋台道具のセットに折りたたまれるように隠されていて、パタパタと現れるという仕組みだ。手品のように、観客の目を楽しませることが狙いで大道具伝統の技術だという。


拳にできた厚いタコは、手のひらについた絵の具を画面に付着させないようにするため、手の甲をついて描くことでできたという。岡本さんの長年にわたる確かな仕事の証しでもある


 本番さながらに行われる「立て稽古」で大道具係は舞台監督や人形遣いと、綿密な打ち合わせを繰り返す。人形遣いから「高さが合わない」と言われれば、その場でセットを切って調整することもある。


素早い場面転換のため動作は機敏だ


 「昔の人は怖かった。亡くなられた吉田玉男師匠や(先代の)桐竹勘十郎師匠は、すごく厳しいものがあった。威厳があったね」と振り返るのは、製作会社「関西舞台」の岡本義秀社長。


幅10間、高さ2間の大きなキャンバスに背景画を描く大道具のスタッフたち。1枚をほぼ1日がかりで仕上げ、1回の公演で5枚前後の背景を描く。大道具帳と呼ばれる細かなデッサン画を元にチョークで線を描き、絵の具を乗せていく。人形が目立つように景色はあえて細かく描かず、少しぼんやり見せる工夫があるのだという。リズム良く、大胆に走る筆先を見つめていると、絵の具が布地から染み出してきているような錯覚に陥った


 岡本さんの拳には大きなタコができている。絵を描く際に手のひらに着いた墨でキャンバスを汚さないよう、手をつくときは拳を支点にして体を支えるためできたのだという。厚いタコが岡本さんの36年間におよぶ誠実な仕事ぶりを証明していた。


舞台の設計図ともいうべき道具帳。これを元に大道具係は背景を描いていく


 「役者さんが要求するものを全部受け入れる。

『できません』てゆうたらそこで終わりじゃないですか。なんかできる方法を考える」職人の意地とプライドがその言葉ににじみ出ていた。

写真・文 頼光 和弘


舞台監督らと屋台セットの動きを確認し綿密な打ち合わせをする大道具係


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